第2章 柱
風音はダランと垂れ下がったままの手を取って握り、満面の笑みから弱々しい笑顔へと変化させた。
「お父さんが居なくなって流れ着いた村でお母さんと過ごし始めた頃から村八分だったんです。それでもお母さんは住まわせてくれた恩があるからって、笑顔で接してお薬を渡してたの」
「……そうかァ。優しい母ちゃんだったんだな」
村では誰も自分の母を優しいだなんて言ってくれなかった。
いつも酷い扱いをしていた癖に、薬を必要とする時だけ必死に縋って嘘の笑顔でねだりに来ていた。
同じ村で過ごしていた人たちはそんなだったのに、1度も会ったことのない……ましてや昨日初めて会った自分の話を真剣に聞き、信じ、母を優しいと言ってくれる実弥の優しさが風音の涙腺を刺激した。
「うん……どうしてかなぁ?優しくしても無感情でいても要らないって言われたんです。どうすれば良かったんだろ?どうすれば……お母さんは鬼に喰べられなかったのかなぁ?」
じわりと綺麗な瞳を覆っていた涙がついに頬へと伝い、先ほどからどうにか保たせていた虚勢も音を立てて崩れ落ちていく。
その様子が実弥の心を締め付け、自分を見上げながら小さく震える風音を宥めるようにゆっくりと頭を撫でた。
「俺にも分かんねェ……ただ鬼さえ居なけりゃあお前の母ちゃんは今も生きていただろうし、お前もこうして泣くこたぁなかった」
握られたままの手を握り返し、頭を撫でていた手を頬に移動させて頬を伝う涙を拭う。
それでも涙はとめどなく流れ止まる様子はない。
「部屋まで連れてってやるから休めェ。俺は今から新しい柱の就任で本部に行くから、ゆっくり休めるだろ。今日の分の飯は作っといてやるから……」
言葉の途中で実弥の道着の襟元に温かさが広がった。
その温かさからも視界に映る目の前の光景からも何が起こったのか即座に理解出来た。
風音が額を軽くあてがって来ているのだ。
「はァ……どうしたァ?お前のしたいこと言ってみろォ」
「私も……途中まででいいから連れてって下さい。宿代も自分で出すから……不死川さんともう少し話したいの」
実弥は空を見上げて時間を把握する。
今からだと例え風音を引き連れて本部の近くまで赴いたとて、就任式に間に合わない事態には陥らないだろう。