第2章 柱
心の奥に隠した言葉を正確には掴めないものの、ほんの少し悲しげに揺れた瞳を見なかったことにはどうしても出来ず、実弥は気丈に振る舞う風音の頭に手をポンと置いた。
「そうかよ。だがあんま気張りすぎんなァ、まだ色々混乱してんだろォ。お前が望むならこれからも稽古は付けてやるから、今日はもう部屋で休んどけ」
ふわふわと頭を撫でられた風音はその心地良さにニコリと微笑んだものの、本人も気付かぬうちに涙が頬を伝った。
(ま、ここまで耐えただけでも上等かァ……母ちゃんに会いたかったんだろうな)
笑顔のままポロポロと涙を零す風音の頭を腕でふわりと包み、もう片方の手でポンポンと撫でてやる。
「お前がいたいだけここにいりゃあいい。薬作りてぇなら好きなだけ作れ、強くなりてぇなら付き合ってやる。だがその前に少し休め、女がボロボロになって笑いながら泣いてんの見るのは堪えんだわ」
「え、あ……ごめん……なさい。不死川さんの手があったかくて……お母さんを思い出したの。お父さんが居なくなって、お母さんだけが……私の」
“生きる意味だった”
言葉を続けたくてもそれを言ってしまえば自分の中の何かが壊れてしまいそうで言えなかった。
ただでさえ涙を流し実弥の手を煩わせているのに、何かが壊れて崩れ落ちる姿など風音には見せることが出来なかった。
「辛いなら無理に先を言う必要はねぇよ。少し休んで落ち着いてからどうすっか決めろ」
「うん……ねぇ、不死川さん」
震える声音に胸を締め付けられ、知らず知らずのうちに頭を抱き寄せている実弥の腕に力が入る。
今から何を聞かれるのかを察知しているのだろう……
「……何だァ?」
「お母さん……あの鬼に喰べられたのかな?もう……いないのかな?」
あの状況を見る限りでは生きている可能性は無に等しい。
籠に入れられていた着物には所々血が付着しており、決して保存状態がいいとは言えなかったからだ。
もちろんそれを見ている風音は、実弥から返ってくる答えなど分かりきっていた。
そして実弥はその分かりきった返答しか持ち合わせていない。
「確証はねぇがその可能性が極めて高い……恐らく会うことは叶わねぇ」