第25章 ポッピンサマーブラッシュ◉相澤消太※
小さく浮かび上がるいくつもの泡、しゅわしゅわと音を立てる透明に、輪切りの檸檬が二つ浮かんでいる
「激しい殴り合いの末!オレが勝利を収めたァ!」
「記憶ぶっ飛んでんじゃねぇか」
「っふふ!」
目線を落としマドラーでくるくると黄色を追いかけた私は、濡れた指先をおしぼりで拭いた
「んでその後、」
朧が帰ったンだよなァ!、相澤くんの言葉に被せるように響いた山田くんの声
相変わらずよく通る声だなぁ、そんなことを考えながら水滴のついたグラスを持ち上げる
「白雲くん、なんで帰ったんだっけ、?」
「忘れた」
ご家族からの電話じゃなかったか、そこは重要じゃないとばかりに相澤くんがもぐもぐと料理を頬張る
相変わらずお箸の持ち方綺麗だなぁ、そんな私の視線に気づいたかのように、彼はカチカチとその二本を鳴らした
「だから3人でチャリ2台になっちまって」
よく晴れた夏の日、大好きな三人と見たきらきら光る海は私の心の奥で色褪せない青を放っている
「・・それ見てお前、なんて言ったか覚えてるか」
「アレはマジで衝撃だったよな!」
げらげらと笑い転げた山田くんの膝がテーブルに当たって、小鉢がカタンと音を立てる
眉をひそめ考える素振りをして数秒、思い切り首を傾げると二人の声が綺麗に重なった
「 「 “じゃあ二人で乗って” 」 」
相変わらずの息ぴったり、思い切り吹き出した私に目の前の二人がやれやれと溜息をつく
「めぐってば、すいすい先行っちまってよ」
「あはは!そうだっけ?」
よっぽど花火が観たかったんだね私、笑いすぎて濡れた目尻を拭うと指先にラメが付いた
本当は全部覚えている、
風を浴び感じた背中の温度、水飛沫の中で聞こえた真剣な声、そして唇に残る甘い甘い檸檬の味
ひとマス進んでしまえばもう元には戻れなくなりそうで、それが怖くてスカートを翻しながらペダルを漕いだ海岸沿い
「ふふ、ぜんぜん覚えてないや」
くすくすと笑いを溢せば二人の溜息がまた見事に揃って、燻ったままの想いを冷ましたい私は目の前のシャーベットを急いで口に運んだ