第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
月娘は微笑み、扇をたたみつつ受け取る。
指先は優雅で、弱さの欠片もない。
だが、瞳の奥だけが、かすかに揺れた。
──かすかな、香の乱れ。
昨夜と調合が違う。
香立てに残る灰の形が、ほんの少し崩れ方を変えている。
月娘は茶を口に運び、静かに香りを探る。
冬の香は、湿りを帯びる。
そこに違和が生まれるのは、自然ではない。
扇が、ゆるりと開かれた。
護りではなく、戦の予告のように。
その午、月宮に女達が訪れた。
華やかな衣、名家の家紋。
顔には礼の面、胸には野心の棘。
壬氏の側室の座を望む、家々の希望と政治の色を纏った乙女たち。
「月娘様……お寂しくはありません?」
「殿下は遠く寒地にて……心細くは…。」
甘い声で、瞳の奥に霜が光る。
月娘は扇越しに柔らかく目を伏せる。
「ええ、寂しゅうございますとも。けれど……冬に咲く花は、誰より遅く、誰より長く香りますわ。」
一瞬で、空気が凍る。
娘たちの唇がわずかに歪む。
「殿下のお心……変わることも、あるかと……。」
月娘は微笑む。
それは鏡面の氷に映る月のよう。
猫猫はゾッとした。
(コイツら死ぬ気か?)
正妃になって丸くなったものの、あの毒の華に命は惜しくないのか…。
「殿方の心は、易う動くもの。けれど、冬の夜ほど月は澄みますのよ。」
己で自分を崩すことなく、相手の驕りだけを折る言葉。
娘たちの笑みが引き攣り、やがて礼だけ整えて去った。
柱の影から、猫猫が目を細める。
「……嫌な匂いがしましたね。」
月娘はその声に扇を傾ける。
「香の湿り。茶器の縁の違和。そして、嫉妬と野心の香り。」
猫猫は肩を竦める。
「冬は毒が回りやすい季節です。」
「ええ。清らかな雪ほど、影は濃く映るわ。」
「そういえば僑香(キョウコウ)様は?」
「冬の宮中は厳しいもの……里帰りさせたわ…。」
なるほど、それで私に面倒な役回りがきた訳か……。
侍女が去ったあとの香皿を見やり、猫猫の手が袖の中へ。
「私、厄介事は嫌いですよ。」
月娘は冷やかな美しさで微笑む。
「だからこそ、猫猫は頼りにできるのよ。」
厄介事になるまでに解決してね♡
月娘の目が言っている。