第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
翌朝。
凛と凍てつく空。
常緑の松には雪が薄く積もり、馬の吐息が白く昇る。
壬氏は瑞月として、冬越しの厳しい領へ向かう装束。
外套の上に雪除けの白。
月娘は濃い牡丹色の重、肩に薄羽織、髪に冬梅の簪。
「ご準備は整いましたのね。」
壬氏は月娘の頬に指を添える。
その指先は、いつもより少し冷たかった。
「例の村へ向かう。月娘が送った冬備え、必ずや民を救っているだろう。」
「使われているところを見届けてくださいませ。あの村は……冬厳しいのです。」
壬氏は深く頷く。
「わかっている。月娘は宮に残れ。お前の優しさを、宮にも知らしめよ。」
馬が蹄を踏む音。
風が薄い雪を散らす。
壬氏は背を向ける前に、月娘の指先をひとつだけ取る。
「心は置いてゆく。奪える者がいるなら、奪わせてみよ。」
月娘は凛と微笑んだ。
「奪われるほど柔くはございませんわ。どうか──御身、凍らせませんよう。」
壬氏は去り、雪煙が静かに沈む。
月娘の袖を冷たい風が撫でた。
白い息とともに、扇がふわりと開く。
さあ──冬に咲く試練を。
邪なる影は、冷えたときにこそ出る。
壬氏を見送ってしばらくして、遠巻きの廊下に、黒髪の影がひとつ。
猫猫が、艶のない声で言う。
「……まためんどくさい冬ですね。」
月娘は扇越しに、雪の庭を眺める。
「冬の花は強く咲くのよ猫猫。貴女にも、楽しませてあげるわ。」
急に壬氏から言い渡された月娘の宮での奉仕。
猫猫はそれだけで嫌な予感がする。
絶対に厄介ごとが起きる。
(しかし、月娘様の褒美は壬氏様より素晴らしい。)
褒美の薬材を考えれば、しばし月娘の侍女をすることなどたいした事ではない。
この時は簡単に考えていた。
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雪明りが障子を淡く染めた朝。
月宮の中庭は静かで、雪を透かす薄氷の下に水が凍えた音を秘めている。
月娘は蒼墨の衣に薄梅色の帯を締め、練香の煙を纏って座していた。
その姿は、春を焦らぬ月のよう。
動じず、揺らがず、ただ美しく気高い。
侍女が茶を差し出す。
菓子には淡雪かと思うほどの白砂がかかる。
「冷えますゆえ、温かい蜜茶を。」