第9章 たまには君から
髪を纏め髭を剃る、こんな風に窮屈に支度をするのは謝罪の時くらいだ
前回着たのは神野の時だったか、そんなことを考えながら開いた扉
クリーニングカバーが掛かったままのスーツとネクタイを引っ張り出し俺は早速嫌な気分になった
「相澤くん、すごく格好いい・・!」
だがそんな憂鬱が今、部屋を覗いた彼女の一言で吹き飛んだところだ
「・・お前に言われると悪い気はしないね」
「学生時代みたい・・」
思い切り頬を染めて見惚れる彼女が感動したように唇を噛んで
今すぐ押し倒したい衝動と闘いながら、こんな顔が見られるならたまには悪くないかと苦笑を漏らす
「ネクタイも、制服思い出しちゃうなぁ」
「いい歳したおっさん捕まえて何言ってんだ」
「ヒーロー科の、相澤消太くん」
「いいからお前も着替えてこい・・!」
照れ隠しに睨みつけると、幸せそうに目尻を下げた彼女がこくこくと頷いて
なんだかハードル上げられちゃったな、そんな風に呟いた彼女が落ち着かない様子で部屋を出ていく
呆れた溜息とともに見送ったその数分後、目の前に現れた彼女の姿に今度は俺が思い切り息を呑む番だった
「お、お待たせしました、」
「・・・」
キラキラと輝く濃紺が彼女の白肌を引き立たせる
いつも下ろしている髪は高めの位置で纏められ、耳と胸元で上品に光る真珠がよく似合っていた
「はりきって、しまいました・・、」
恥ずかしそうに目線を落とすと、淡い色の瞼がきらりと光を反射して
いつもより入念に施された化粧も、その全てが俺の胸を締め付ける
こんなに綺麗なお前を、俺は知らない
「やっぱり、変かな・・?」
何も言わない俺を不安そうに見上げる瞳が次第に潤んで、自身の鼓動が加速していくのを感じる
「制服姿を思い出す」と懐かしさを滲ませた彼女とは違い、初めて見る着飾ったその姿に俺の心は僅かに騒めいて
離れた十年を身近に感じたお前と、遠く感じた俺、胸が高鳴っているのは同じだと安心させてくれないか
「はぁ」
「・・っ、」
「誰にも見せたくないくらい、綺麗だよ」
柄にも無いそんな言葉が口から零れる、
驚きに目を見開いて「嬉しい・・!」とはにかんだいつもの笑顔に、これも俺の知る彼女なのだと静かに安堵の息を吐いた