第9章 たまには君から
「行かない」
「で、すよね・・」
夕飯を終えもうひと仕事、俺がパソコンに向かうのを待っていたかのように彼女がその話題を切り出して
言いにくそうに紡がれる懇親会の詳細を背中で聞き終え、くるりと椅子を回した
「・・いっしょに、」
「行かない」
「もう、即答なんてひどい」
口を尖らせた彼女が後ろ手に何かを隠している、紙袋らしいそれがかさりと音を立てると彼女が視線を泳がせた
「・・実は香山先輩からドレスを頂いたの、」
わざわざ私のために準備してくれたみたいで、
おろおろと彷徨った視線が床に落ちる
何かを企んでいるに違いないあの人の笑みが脳裏に浮かんだ
「手に持ってるのが、それか」
ったく、嫌な予感しかしない
毎年不参加を貫いていた甲斐あって今年は案内の段階から回避したと思っていたが、その裏でこんな小細工をしていたとは
あの人が寄越すモンだ、包みの中はド変態なデザインに違いない
「着たいのか、それ」
「う、ん、せっかく準備して下さったし」
恥ずかしそうに赤く染まった目元、意外にも彼女はそれを気に入っているらしい
それはそれで、式の予定も立ててやれない俺への当て付けだろうかと、心の中で香山さんに悪態をついた
「あの人が選んだんだろ」
デスクに置かれた箱に手を伸ばし、しぶしぶ蓋を開けると輝いた濃紺
手に取ったそれは間違いなく彼女に似合う上品な代物で、俺は顳顬を押さえた
「はぁ」
「っ、似合わない、かな・・?」
「めちゃくちゃ似合うに決まってんだろ」
縫い付けられた繊細な飾りが室内の明かりを反射する
彼女が魅了されるのも仕方がない、照れ臭そうにはにかんだその表情に容易く毒気を抜かれて
これを纏った彼女はどれほど、
「・・悪い虫が付きまくるな」
「そんな、私ひとりでも大丈夫だよ、」
無理させたいわけじゃないの、眉を下げて笑った彼女が慌てて箱の蓋を閉める
大事そうに紙袋に仕舞われたそれを彼女が抱えた瞬間、背後の液晶がメール受信の通知音を響かせた
「貴方が不参加ならエスコート役を手配しなくちゃ」
図ったようなタイミングに、差出人の名前をこれでもかと睨みつける
その下に書かれたダメ押しの一文、俺は深く溜息を吐いた
「どうせなら絵になる方がいいわね、卒業生枠で来校予定のジーニストはどうかしら?」