第8章 いい写真だろ
着任初日の金曜日、彼女は挨拶を兼ねてヒーロー課を見学していた
瞬く間にこいつらと打ち解けたのは充分に分かっていたつもりだったが、たった一日で、人たらしめ・・
「・・まずは号令だ、飯田」
小さく呟くと至る所で歓声が上がって
起立を促す声を聞きながら、これからの展開を想像し溜息が漏れる
先週と変化したのは彼女の指輪だけ、
まだ朝8時台だというのになんて目敏い奴等なんだ
「ご結婚は事実ですのね!」
「あとで皆んなでお祝い行こうよ〜!」
特段隠す理由もないが騒がれるのは面倒、わざわざ結婚報告なんざする気は微塵もなかった
だがこの状況じゃ、彼女が詮索されるのが目に見えている
「お前らに言うつもりは毛頭無かったが」
予め伝える方が合理的か、気絶寸前の二人を解放し改めて教壇へ上がると皆の視線が一気に集まった
「薬師先生の結婚相手は、俺だよ」
淡々と発した言葉に教室が静まり返る、隣の部屋のブラドの声が聞こえるほどの静寂が訪れ、驚きと恐怖が生徒たちの目に浮かんだ
(((相澤先生が、冗談を・・!!)))
「あ?お前ら全然信じてねェな」
漂う何とも言えない空気に、顳顬が苛立ちに震える
眉間の皺を深くしながら、俺は寝袋からごそごそと携帯を取り出した
「ったく、」
悪態をつきフォルダの中から選んだ一枚、照れ臭そうに左手を見せる彼女が画面の中で笑っている
「ほら、いい写真だろ」
「「「え?!」」」
「「「ええええええ!!!」」」
静まり返っていた教室が一変して騒がしくなり、叫び声で窓硝子が割れる
吹き込んだ秋風が机上の出席簿をパラパラと捲って
「相澤先生が、結婚!?!?」
「そんな奇跡みたいなこと、ありますのね!」
「個性事故じゃなくて?!」
「合理的虚偽でなくシンプルに虚偽では」
こいつら・・俺をなんだと思ってんだ・・
「よく聞け、今後お前らのくだらない乱闘で夫婦の時間を邪魔してみろ、息の根が止まるギリギリまで縛り上げられると思えよ」
「「「ひぃ!!!」」」
「あと上鳴と峰田、お前らについては彼女に邪な感情を抱いた時点で除籍処分とする」
次は無いと思え、そう思い切り圧を滲ませる
聞こえてんだか聞こえて無いんだか、放心状態の二人を平等に小突くと俺は寝袋を持ち上げ教壇を降りた