第9章 婚約者は誰?
その代わりってわけではないけど、月に一度ほど五条家に呼ばれるようになった。人手が足りないのかと思い、お母様に尋ねてみるけど、特に使用人の間で誰かが辞めていったとかそういった話はないみたい。
なんだろう? と思い屋敷に向かうと奥様があたしを待っていたようで声をかけられる。
「なぎちゃん、ごめんね、高専の方忙しい?」
「いえ。逆に最近ゆっくりしてる事が多くて、居づらいくらいだったのでお屋敷が大変ならいつでも声を掛けてください」
「そう? じゃあ一緒にお買い物行きましょう。付き合ってほしいの」
「お買い物ですか? あたしと?」
奥様は頷いてあたしを連れてお出かけされる。客間に飾る掛け軸を新調したいんだとか。
五条家とご縁の深い掛け軸屋さんに足を運ばれて「どれがいい?」ってあたしに尋ねてこられるんだけど、ちんぷんかんぷんだし、わからないと答えると、お店の方が掛け軸にまつわる絵や書、表装の説明をあたしにしてくださる。
選ぶのは奥様だよね? あたしは付き添いだよね? よくわからないけど、五条家の掛け軸を奥様と選定する作業を一緒にする。
別の呼び出しがあった日は、お茶やいけばなの家元へ奥様がご挨拶に行くという用事にあたしも付き添って、なぜかあたしがそこで手習いを受ける。意味がわからず帰宅の途でずっと黙っていると奥様が察したご様子であたしの顔を覗き込まれた。
「なぎちゃんはお出かけいや? 悟は男の子でつまんないし。最強に成り上がって、体も仕上がっちゃってもう母親としては何もする事がないのよね」
「いえ……嫌なんて滅相もないです。でも、あたしは奥様に直にお仕えするような立場ではありませんし、度々こんな風にお供をするなんて身に余ります。母にも叱られます」
「私が誘ってるんだから問題ないわ。なぎちゃんが嫌じゃないならまた付き合って」
にこにこと可愛らしい笑顔でお話される奥様に圧倒されて、思わず首肯したけれど、急にどうしたんだろう。悟くんにも尋ねてみたけど「夕凪のこと気に入ってんでしょ、時間あるんなら付き合ってやってよ」って言う。
明らかにおかしい。「そんな暇あるんなら、走り込んで体幹鍛えろよ、断れよ。術師は人、足りてねーんだよ」とか言うと思ったのに。