第14章 蜂蜜
ー穂波sideー
家に帰ってシャワーを割りと念入りに浴びて、支度を済ませた。
ドレスコードは特にないお店だけどせっかく誕生日に誘ってもらった、
どんな格好で行っても場違い感のないお店。
それはつまり、いつも通りでもいいけど、ちょっとおめかししてもソワソワしないってこと。
…とはいえ、いわゆるこちらでのパーティーやディナーの時のドレスアップほどはしようとは思わなかった。
でも自分にとってとびきりの服を着たいって、思った。
そして18時55分。
お店に到着して研磨くんの名前を言って。
通された先には、愛おしい愛おしい、研磨くんの後ろ姿がそこにあった。
『研磨くん、こんばんは』
「…ん、穂波、お疲れさま」
『お待たせしちゃったかな?』
「ううん、おれもさっき来た、5分くらい」
『ん、ありがとう』
「…?」
待ったのに待ってないとかいう人じゃない。
本当にいろいろスマートで、お店にもわたしにもスマートで、
何も気を遣わせない感じ。
始まりは人とあまり関わらないためにかもしれないけど、
研磨くんが幼い頃から培ってきた能力、みたいなもの。
気を遣いたくないし、気を遣われたくない。
みたいなのの中に、しっかりと存在する、何一つ力みのない気遣い。
ありがとうしかない。
研磨くんっていう存在に。
今日という日に。
「…ふ、なんか今壮大なこと考えてたでしょ」
『え?ううん、そんなことない。幸せだなって、思ってたの』
「…ふーん …そのワンピース、やっぱり似合うね。 綺麗。 今日もかわいい」
『…ん、ありがとう』
それでいて案外ど直球なこういう表現に、わたしは未だ慣れることができない。
照れて、でもちゃんと、お礼を言うことだけで精一杯になる。
そしてそんなわたしを見ていつも研磨くんは、
優しいのにいじわるで、とびきり色っぽい目をするんだ。