第14章 蜂蜜
ー穂波sideー
・
・
・
「今日の夜なんだけど」
『うん?』
水曜日の朝、研磨くんがベッドの上から話しかけてきた。
「店、予約した」
『え!』
何を隠そう、今日はわたしの誕生日だ。
わたしからしたら、研磨くんと過ごせるだけで嬉しい。
だから今日は普通に帰宅して、
それかお兄ちゃんもカズくんもいるし海でみんなで落ち合って、サーフィンするのもいいな。
そのあと夕飯は作らないかもな、ケーキも食べるかもな、くらいに思ってた。
夕飯を作るんだとしたら帰りにちょっといい素材を買って帰ろう、くらいに。
本当なんの期待もなく、ただただ、この日の朝を研磨くんと(しかもはだかで)迎えられる喜びを享受してた。
ら、お店予約しただなんて。
「19時に、シェ・パニース。向こうで会うでいいかな?」
『…え?』
「…え、合ってる?おれ間違った?」
『ん?』
わたしの、憧れのお店。
ランチは行ったことあるけどまだ、ディナーはいけたことない。
とにかく語り出したら止まらない、魅力溢れるお店。
そのお店で長年勤務されたあと、独立した方のお店で週末はバイトをさせてもらったりしていたりする。
そんな流れで、憧れのお店があること、予約が全然とれないから益々想いが募っていくこと、とか話したのは覚えてる。
本当に、会話の流れで。
「………」
『19時にシェ・パニース。んと、』
「おれの名前」
『研磨くんの名前、19時』
「うん」
『研磨くんは用事があるの?わたし一旦帰ってこようと思うけど』
水曜日は16時にクラスが終わる。
家に帰って支度してもまだ時間が余るくらいだ。
……え、何着よう。
研磨くんと誕生日のディナーデートだなんて。
夜にお店で待ち合わせ、ってそれ自体が初めて今からドキドキしてきちゃう。
…待ち合わせ、待ち合わせ、待ち合わせ。
うん、なんて幸せで甘美な響き。