第25章 光
「……え………?」
───ズン、と。
鉛をつけて海に沈められたみたいな感覚。
身体中の力が抜けて、頭がぐらぐらとまわる。
「……な、に…」
一瞬、誰かに攻撃されたのかとすら思った。
だけど、違う。
あたしは、ずっと前からこの感覚を知っていて。
長年かけてゆっくりと体が馴染んでいった。
そして、つい最近、これが普通じゃなかったことを知った。
不意に視界が開ける。ローが離れたんだ、と気づくまでに少し時間がかかる。支えるものが無くなってふらつく体を、地面に右手をついてなんとか持ち堪えた。気分が悪くて、思わずもう片方の手に口元を押さえる。
そして、その手首に何かがあることに気づいた。
無骨な白い手錠。
───海楼石だ。
その時に初めて、あたしは自分の体に何が起きたのかを知ったのだった。
さっきまでこんなものなかった。
これを付けた人が誰かなんて、そんなの一人しかいなくて。
その人に追い縋るように声を出す。
「だめ、ロー、待って…」
掴もうとした手は、虚しく空を切った。
どうして。
なんでこんなものをあたしにつけるの…?
立ち上がったローの顔は見えない。だけど、地面に落ちた影が、そこにまだ人がいることを教えていた。
「…先にこれを渡しておく」
ぽつりと、声だけが聞こえて。
どこから取り出したのか、あたしの頭に何かが被される。
見なくても分かる。
多分、探していた黒いキャスケット帽。
約束したからだ。
ローと離れる前に、コリーダコロシアムの前で。
だけど、どうして今なの。
全てが終わってからでもいいのに。
なぜ、このタイミングで。
あたしは吐き気を抑えてなんとか上を向く。気持ち悪さで視界が滲んだ。だけど、精一杯力を振り絞って、ぼやける人影に向かって縋りつくように声をかけた。
「───ロー…っ、帰って、きてね…っ」
絞り出した声に、返事はなかった。
一瞬で掻き消えた姿。今までそこに誰かがいたなんて思えないほど、無情なまでに広がる青。
すでに消え去った彼の残像を追いかけて見つめ続けるあたしの視線の先には、ただ空虚さだけが漂っていた。