第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
甚爾が【游雲】を構え、低く腰を落とす。全く隙がない。むしろ、気迫だけで身を引き裂かれそうだ。
――その牙は、常に強者へと向かう。
『なんなの、この男……呪力が全く感じられない。こんなことってあるの?』
非術師も、【天与呪縛】の真希すら、わずかでも呪力を持っている。“全くない”なんてことがあり得るのか?
『言うに及ばんな』
詩音が呟くも、特級は彼女ではなく男へ式神を放った。
――ドパァッ!
式神が【游雲】によって貫かれ、身体が弾ける。続けざまに何体もの式神が甚爾を襲うが、全てねじ伏せられた。
どこまでも圧倒的で、目を逸らしたくなるほど暴力的。
式神を捌ききった甚爾が弾丸のようなスピードで特級へ迫り、【游雲】で殴りつけ、海の上まで吹き飛ばした。
真希の洗練された動きとは違う。大胆で、速くて、一切の無駄がない。どこか虎杖に似た高い戦闘センス。
追いかける甚爾を足止めしようと、特級が鋭い牙を持つ式神を大量に呼び出すも、グチャグチャと耳障りな音を立てて叩き潰していく。その足は、当然のように水面を駆けていた。
呪力なしであの人間離れした力。下手をしたら、呪力を纏った術師より上。
あれだけの動きをしていて、疲労は全く感じられない。それどころか、スピードはどんどん上がっている。
そこへ、大きな波を起こしながら、フナムシに似た巨大な式神が二体 現れた。背中の甲羅は鈍く光を反射し、高い硬度を持っていることが窺え、顎についた鋭い牙がギチギチと音を立てて威嚇している。
それにニヤリと口角を上げ、甚爾は【游雲】で打ち出し、一瞬にして二体の式神が消し飛ばした。