第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「はぁ……どいつもこいつも考えすぎなんだ。言いたいことも悩みも、全部 吐き出してしまえば良かったんだよ。アンタの周りにいるヤツは、それを嗤ったり無視したりするような連中でもないだろ。それで抱えてる悩みが解決するとは言わないが、今よりはいくらかマシな結果があったはずだ」
――“アイツもね”。
そう小さく呟かれた言葉は確かに耳に届いた。
「……今 俺が動かせるのは、京都にある三体だけだ。とても間に合わな……」
「いや。それならすでに押収し、操作できないよう封印を施して東京校に保管している。すぐに解除させよう」
そう言って、夜蛾は高専へ電話をかけるべくその場を離れる。輸血の準備ができたのか、怪我をして気を失っている補助監督の男も医療スタッフに連れて行かれた。
「さっきの話。五条が封印されたってのと、夏油が首謀者だって話、どこまでホント?」
五条封印と共に傀儡が起動してすぐ、夜蛾や家入に話したことだ。
「全て本当だ。それと、夏油は首謀者だが、実際は夏油の裡(うち)にいる者で……」
言い終わらないうちに、「そ」と頷き、家入はひどく冷めた目をする。
会ってそれほど経っていないが、彼女はいつも淡々としていて、どこか掴みどころがなかった。
それでも、先ほど声を掛けてくれたときはいくらか気遣いを感じたし、目元や雰囲気も少なからず柔らかな印象があった。それが、一瞬にして消えた。
「死者の冒涜―― あたしが一番 許せないことだ。医者なら当然だよね。それが同期ならなおさら」
凍えそうなほど冷たい声音に、与はゾッとする。
「全く……五条も変な気遣わないで、あたしに任せときゃよかったんだ。封印されただけで、五条は無事なんでしょ。さっさと戻って来て、殴るなりなんなりして夏油を取り返してもらわないと。こんなんじゃ、アイツもおちおち眠ってられないからな」
ブツブツと言いながら、家入はポケットから取り出したタバコを口に咥え、火をつけた。