第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「これ……式神か?」
「灰原の【折神操術】だ。それより、そこのバッグを取ってくれるか?」
示されたバッグを持って来る間に、家入が容体を確認する。
「……手ひどくやられているが、【反転術式】が使われている。心臓の横すれすれを刺されたのか。星良が間に合わなかったら死んでいただろうな」
与からバッグを受け取り、家入は他の刺傷の治療を始めた。さらに医療班のスタッフを呼び、輸血の準備をさせる。
そこへ、東京校の学長である夜蛾が重たい空気を引き連れてやって来た。
「与、頼みがある」
「え……?」
何を言われたのか分からず、与は面食らう。それに構わず、夜蛾は続けた。
「今、星良から救援の要請があった。負傷者多数で人手が足りないらしい」
そう言って、夜蛾は一枚の札を見せる。星良が術式で認(したた)めた手紙のようだ。
【帳】の外は問題ないが、中は電波が断たれて連絡がとれないはず。だから、術式で手紙を飛ばしたのか。
【反転術式】を使える人間は少ない。おそらく、星良は渋谷を駆け回っているところだろうが、到着が間に合わず、本来 助かる命を取り零してしまうこともあるだろう。
「だが、俺は……」
「もちろん 上層部には内密に、だ。オマエの立場は非常に危うい。それでも、“オマエがまだ呪術師だと言うのなら”、手を貸してもらいたい」
まだ、呪術師ならば……。
京都にいる三輪たちにはまだ会えていない。自分がしでかしたことは伝わっているだろうし、言い訳をするつもりもなかった。
ただ、裏切りたくて裏切ったわけではない。そうすることでしか、自分の望みを……本当の姿で皆に会う方法が思いつかなかっただけで……。