第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「身体は問題なさそうか? 【天与呪縛】で身動きもままならなかったんだ。検査で異常は見つからなかったが……だから『大丈夫だろ』と決めつけはしないよ。医者としてね」
「……今のところは問題ない。まだ身体の動かし方は慣れないがな」
手を閉じたり開いたりし、足先を動かしてみるが、違和感はあるものの、痛みなどはない。
「術式も問題なさそうだな」
フッと小さく笑う家入にドキリとする。
「隠さなくていい。虎杖は無事か? さっきまで話していたんだろう?」
「あ、あぁ……」
バレていたのか。だが、なぜ 見て見ぬふりをしたんだ? 自分は高専を裏切り、敵に情報を流していたスパイだ。
それに、もっと早く目を覚まして五条封印の企みを高専側に伝えることができれば、状況もまだ違っていただろう。
どれほど責められても仕方がないにも関わらず、寛容に受け入れてもらえている状況に与は戸惑う。
思わず俯いていると、ゆったりとした足取りで家入が隣に立った。
「やったことがやったことなだけに、あれこれ言ってくる連中はいるだろうし、罰もなく無罪放免というのも難しいだろう。けど、後悔している人間を相手に責める言葉は持っていないよ」
不意に蹄のような軽やかな音がして振り返る。そこには一頭の馬が黒いスーツの男――おそらく補助監督――を背に乗せていた。
「敵も随分と派手にやっているね。補助監督を狙うってことは、こっちの連絡網を断とうって魂胆か。やれやれ。与、動けるなら手伝ってくれ」
家入に呼ばれ、与は気を失っている補助監督を馬から下ろす――と、馬は折り紙に変わり、そのまま消えた。