第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「馬鹿か」
急に方向転換した虎杖を、脹相は眉を寄せつつも空中に三つの【百斂】を作った状態で追いかけた。
虎杖が入って行った先にあるのはトイレとエレベーターのみ。どこへ逃げ込んでも袋の鼠。今までのように【穿血】を避けられる広いスペースもなく狙い撃ちにできる。
そこへ、トイレの方からガタガタと音が耳に届いた。
何の音だ?
虎杖は弟たちに勝っている。馬鹿ではあの二人には勝てない。それに、突然 現れたもう一つの声……何かあると考えるのが普通だ。油断しないようにいかなければ……。
自分の周りに作っていた【百斂】を一つ手に取って攻撃の準備をしていると、ゴッというぶつかる音と共に『何ダ』と虎杖ではない声が聞こえた。
『来ないのカ? 弱虫なんだナ――弟たちと同じデ』
瞬間、一気に頭に血が昇る。
「――殺す‼」
大事な弟たちを侮辱されて、兄として黙っていられるわけがない。
地面を強く蹴り、声と異音の聞こえる男子トイレに駆け込んだ脹相は【穿血】の構えを取り――固まる。水道管が破壊されて蛇口からは水が吹き出し、スプリンクラ―も作動して放水していた。
『本当にそっくりダ。三人とも兄弟想いで扱いやすイ』
ギリッと奥歯を噛み、トイレの壁にくっついている声を発する小型の機械を【穿血】で貫く。
その背後に気配を感じた。虎杖だ。多目的トイレに潜み、こちらの隙を伺っていたのか。
打ち出された拳を受け止め、脹相は距離をとった。
「残念だったな。今のが最後のチャンス。逃げ場がなくなったのはオマエの方だ!」
そのとき、脹相の周囲に浮いていた【百斂】が解けて消えた。
* * *