第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「――ッ、あっ‼」
どうにか上半身を逸らして攻撃を逃がすも、すぐに追撃がきた。
「【百斂――『穿血』】‼」
どうにか身を低くして血のレーザビームを躱し、男の懐に入り、呪力を纏わせて左拳を放つ。
拳を受け止められるも、虎杖はすぐ違和感に気づいた。打ち出した拳に呪力が追いつかず、上手く乗せられていない――【逕庭拳(けいていけん)】を打ち出したときと同じ感覚だ。
腕に激痛が走る。痛みで呪力操作が甘くなっていたのが原因だ。
ザッと距離を取り、腰を落として拳を構える。
先ほどの攻撃で負傷し、腕の傷が深い。だが、痛みはくると分かっていれば我慢できるが、それ以前にもう思うように動かない。それに、片腕を庇っていると隙を見せればつけ入られる。
――だからこそ、左でも攻める。
細く息を吐き出し、虎杖は男を見据えた。
「――オマエに、聞きたいことがある」
不意に男が口を開き、虎杖は警戒しながらも無言で先を促す。
「弟は最期に何か言い残したか?」
「弟……⁉」
誰のことかと聞き返すと、男はチッと低く舌打ちをした。
「オマエたちが殺した二人の話だ」
自分たちが殺した、二人――そう指摘されて思い出したのは、八十八橋での戦いだった。際どい衣装を着た兄と、異形の姿の弟。
脳裏で【澱月】の触手が鋭く貫き、炎が瞼の裏で爆ぜ、釘崎の金槌を打ちつける音が耳に蘇り、打ち据えた拳の感触が蘇る。