第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
「星良さん……」
『あたしは誰かの命を諦めない。最後まで足掻くって決めてます。あたしが前に言ったこと、覚えてますか?』
――「皆が死なない方法なんてないけど……手を伸ばして助かる命は助けたい」
『だから 七海さんも、諦めなくていいんです』
星良の言葉に、胸に深く刺さった杭が溶けていくような気がした。
「…………渋谷駅 十三番出口です。星良さん、お願いできますか?」
詰めていた息を吐き出すように言うと、電話の向こうで『もちろんです』と星良が頷く。その言葉に、救われたような気がした。
『止血できそうならお願いします。動かすのが難しいならそのままで。渋谷駅なら、灰原さんの【折神】で五分以内に行けます』
「分かりました。止血を終えたら、私は先に行きます」
必ず助けます、と星良は言わない。その言葉の無責任さを、星良は理解しているのだろう。
『七海さん』
俯きかけていた顔を上げると、星良の声が近くなった。治療を終え、灰原からスマホを受け取ったようだ。
『どんな無理をしても あたしが助けます。だから、「無理をするな」とは言いません。その代わり、あたしが駆けつけるまで、自分の命も諦めないでください。約束です』
「分かりました。善処しましょう」
『な〜な〜み〜! 約束だってば! 僕も、七海が呼んだら超特急で【折神】走らせるから‼』
「灰原、電話口で大声はやめてください」
伊地知を襲った犯人は、おそらく補助監督を狙って動いているのだろう。ならば、もうここに現れることはない。
通話を終えた七海は、伊地知の服を裂いて傷口を強く圧迫する。やがて出血が緩やかになったのを確認し、止血した布を常備している包帯で身体に結びつけて固定した七海は、彼を置いてその場を後にした。
* * *