第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
――同刻 渋谷Cタワー
「【帳】、上がっちゃったね。どうする、婆ちゃん?」
孫の言葉に、オガミ婆は嘆息した。
辺見も粟坂もやられてしまったか。
子どもと侮ったのか、よほど優秀な術師だったのか。
「どっ、どっ、どどどどど、どうする?」
どもりまくる孫に、オガミ婆は渋谷駅へ視線を向け、屋上へ乗り込んできた術師を思い出す。
暗がりだったがはっきりと見た。辺見をワイヤーで捕らえて屋上から連れ出した少年は、呪術高専の制服を着ていた。
ならば、奴らは必ず 五条の封印を解くべく動くだろう。
「五条 悟はおらんに越したことはない。オマエは下に降りて術師を殺せ」
おそらく、あの鳥の式神は乗り込んできた二人のものではない。下に必ず式神使いがいるはずだ。
指示を出したにも関わらず、孫は返事もしなければ動きもしない。
「……孫?」
呼びかけると、孫はゆっくりと振り返った。
「ババァ、誰に命令してんだよ」
眉をギュッと寄せ、青筋を立てて殺気立つ孫――否、男に空気が震える。背筋が粟立ち、オガミ婆は反射的に飛び退き、男と距離を取った。
「どういうことだ……儂は“肉体の情報”しか降ろしておらん!」
そう――こうして精神を乗っ取られて暴走するような不測の事態を未然に防ぐため、“魂の情報”は降ろさないと決めているのだ。
それなのに、なぜ乗っ取られている⁉
「降ろす? あぁ、そういう……よく分かんねぇけど、俺の肉体は特別だからな。コイツの魂が俺の肉体に勝てなかったんだろ」
ニヤリと笑う男――禪院 甚爾に、オガミ婆は絶句する。
魂が肉体に負ける?
意思を持つ魂が、器でしかない肉体に?
そんなこと あるわけ……。
「術師は殺せ、か……テメェも術師だろ」
わずかに意識が逸れた――……瞬間、眼前に甚爾が迫る。
振り下ろされた拳に為す術もなく、その拳一つで渋谷Cタワーの屋上に血の海が広がり、オガミ婆の死体は数珠と共に沈んだ。
* * *