第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
「猪野さん! 猪野さん‼」
【鵺】の翼に寝かせ、虎杖が必死に猪野へ呼びかけていた。
「ユージ! 猪野さんは⁉」
詞織が尋ねるも、動揺からか虎杖は言葉が出ないようだ。
伏黒は猪野の首筋に手を当て、軽く容体を確認する。
顔面は変形するほど歪み、おそらく全身の骨にひびが入り、折れているところもあるだろう。
「大丈夫……じゃねぇけど、死んじゃいない」
だが、この重傷じゃ詞織の【反転術式】も……。
「メグ、代わって」
伏黒を押しのけ、詞織が猪野に手を翳す。
「おい……」
「……【思ふこと むなしき夢の なかぞらに たゆともたゆな つらき玉の緒】」
ポゥ…と柔らかな光が猪野を包み込んだ。ゆっくりとだが、顔の傷が治っていく。
【反転術式】を掛け終え、伏黒はもう一度 猪野の身体を確認した。骨折も治っている。
「腕 上げたな」
「稽古でよく怪我してくれた順平のおかげ」
それ、本人には言うなよ。気の毒だから。
やがて、ほっと安堵の息を吐いた虎杖が立ち上がった。
「ちょっとぶん殴ってくる」
「わたしもつき合う」
「虎杖、詞織。気持ちは分かるが抑えろ。俺たちの最優先事項は?」
虎杖と詞織はしばらく沈黙し、互いに視線を合わせ、不承不承といった様子で口を開く。
「「……五条先生」」
そう。五条の封印さえ解くことができれば、また戦況は変わる。上手くいけば、事態収束に繋がるだろう。