第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
長身、短髪、目は虚ろだが鋭く、口元に傷がある――突然 現れたその男に、詞織は目を見開いた。
誰だ、この男は。術師なのか?
『脱出ではなく、新たに術師を招き入れたのか?』
事態が呑み込めないのは自分たちだけだはなく、特級も突然の侵入者に混乱している。
だが、伏黒の領域から出て飛び上がっていた男は、気がつけば真希の前に立ち、【游雲】を掴んでいた。
いつの間に⁉
だって、さっきまで空中にいたはずなのに……。
そして、男は【游雲】を力任せに引っ張り、取り上げた。その反動で真希の身体が吹き飛ばさされる。
「真希さん!」
「真希さん、無事ですか⁉」
詞織と伏黒の呼びかけに答えず、真希は受け身をとって着地をするも、冷や汗を流していた。
「なんだ、あの男。呪力をまるで感じなかった」
呪力を感じない?
ならば、ただの力比べで真希が負けたというのか?
【天与呪縛】で身体能力が底上げされている真希が?
「伏黒君」
「ダメです。穴が塞がれました。しかも、今のでこっちの狙いがバレた」
もう簡単には開けさせてもらえない。
伏黒の領域がわずかに広がった。穴を空ける動作を捨て、領域の押し合いに加勢してくれるらしい。それでも、領域の押し合いは依然 相手の方が勝っている。
不意に、直毘人がハッと息を詰めた。