第55章 永久を願うコン・アモーレ【渋谷事変】
「灰原さん、手を……」
言われた通りに手を出すと、筆を取る手間も惜しいのか、【反転術式】を片手で掛けながら、反対の手の親指の皮を噛み切る。流れ出る血を灰原の手に押しつけ、血で文字を書いた。
――【神ノ原 星良】
「灰原さんは今、術式上 あたしと同一人物とみなされています」
「うん」
「理屈ではできます。でも、初めてやるんで、成功するかは分かりません」
「うん」
「操作はあたしがします。だから、灰原さんは呪力を滾らせていてください」
いくらか調子が戻ったのか。震える吐息を吐き出し、星良がゴクリと息を呑む。
「信じてるよ、星良ちゃん」
力強く頷き、星良が七海の焼けた左半身に噛み切った右の親指で【復元】の文字を書いた。
「たぶん、完治させるまでは呪力がもちません。なので、容体が安定するまで【復元】します」
灰原の手を上から握りしめ、星良が【反転術式】を切り替える。
――【反転術式『復元』】
灰原と星良の呪力が七海の身体を包み込んだ。自分の呪力が誘導されていくのは、味わったことがないほど不思議な感覚だった。
「七海さん……七海さん……!」
「七海……!」
呪力が一気に消費されていくのを感じ、灰原は汗を流し、歯を食いしばる。星良はいつもこんな風に他人を助けているのか。
そう思うと、彼女への尊敬の念がまた募った。
本当にすごいよ。七海も、星良も。
君たちの友達であることが誇らしい。
やがて、ゆっくりと長い時間をかけ、焼け爛れた七海の皮膚がケロイドを作っていった。