第1章 一夜目.5時限目の空
一織は、脱いだダウンを地面に広げた。その上にエリを寝かせる。自分を見上げる彼女の視線に、なんだか自分がひどく悪いことをしている心地にさせられた。しかし、心は正直だ。エリと共に、先へ進みたくて堪らない。こんな浅ましい自分を空で輝く月や星に見られたくなくて、一織は隙間なくカーテンを閉めた。
「本当にやめなくていいんですか?今ならまだ、間に合いますけど」
『ありがとう。一織くん。私のお願い、我儘を叶えてくれて』
言いながら、両腕を広げたエリ。一織は困ったように薄く笑って、その腕の中に身を沈める。
三度目となる口付け。一度目は不意打ちで、二度目は必死だったから気が付かなかった。こんなにも、彼女の口中は熱かったのか。
そして今更ながら、好きな人の内部に自分がいることに胸が震えた。キスだけでこうなのだ。この後一つになった時、自分がどうなってしまうのか想像も付かなかった。
『は…、はぁ…。ん…っ、きも、ちい』
「そうですか。それなら、良かったです」
『……なんか、一織くん冷たい』
「誤解です。これでも必死なんですよ。悪いですか」
『ふふ、悪くない。ねぇ。一織くんは?気持ち良い?』
「気持ち良いですよ、驚くほどに」
『なんで、一織くんはキスがこんなに上手いの?初めてじゃ、ない?それともどこかで練習した?』
「まさか。
…こういう話を聞いたことがあります。本当に好きな相手と交わす口付けは、技術もシチュエーションも関係なく、絶対的に気持ち良いものらしいですよ」
『あぁ、うん…。なるほど、すごく納得』
お喋りはここまでです。と、エリの唇を指でなぞった。
それから、一織はタイの結び目に指を差し入れて、そのままそれを襟元から抜き取る。しゅるっと音を立てて宙を舞った赤いネクタイを、ぽぅっとエリは目で追っていた。