第1章 一夜目.5時限目の空
—13小節目—
SECRET NIGHT
臙脂(えんじ)のカーテンから差し込む月明かりが、エリの顔を照らした。一織は金縛りあったみたいに、微動だにせずそんな彼女の顔を見つめ続ける。
『一織くんとの思い出を頂戴。代わりに、私の初めてをあげる』
「……え、そ、れは…本気で、言ってます?」
『冗談で言える内容だと思う?』
どこの誰が予想出来ただろう。付き合ってもいない想い人から、体を求められるなど。しかも、場所は夜の体育館だ。さすがの一織も、面食らうことしか出来なかった。
“初めて” とは、一織が想像する通りの “初めて” で正解なのか。思考を巡らせていると、痺れを切らしたのかエリがまた距離を詰めてくる。鼻先と鼻先が触れそうな至近距離。彼女の瞳の中に映る星月に、魔法をかけられそう。
「私は…何を、試されているのでしょう」
『どうだろう。あえて言うなら、男かどうか。じゃない?』
「そんなことでしたら、試すまでもないのでは?あなたには、私が女性に見えるんですか?」
『ふふ、つまらない返事。それともあれか。一織くんみたいな優等生は、こんな場所ですることなんて出来ない?まして、付き合ってもない女の子が相手なん』
今度は、一織の方がエリの言葉尻を強引に奪った。唇に唇を押し付けた後、顎先を軽く持ち上げて自らの舌をねじ込んだ。エリが小さく反応したが、行為をやめることはしない。やめるどころか、彼女の腰を強く強く自分の方に引き寄せて、逃げ道を確実に断つ。
ようやく解放されたエリは、瞬きを忘れ一織を見つめた。
「そんなふうに煽られれば、優等生でもこうなりますよ。男ならね」
“ 付き合ってもない女の子 ” というエリが発したワードが引き金になったわけだが、一織は説明を故意的に避けた。