第1章 一夜目.5時限目の空
「私には、出来なかった?それはどういう意味ですか?」
『……その話をするには、私のもうひとつの秘密を先に話さなくちゃ。
ねぇ一織くん。どうして私が、いつも学校に遅刻して来るのか知ってる?』
「いえ。その話題は、あなたが触れて欲しくなさそうだったので故意的に避けて来ましたから」
『だよね、ありがとう。でも、一織くんになら話してもいい。あのね。私、プロのダンサーを目指してるんだ。それでレッスンを受けてるんだけど、その先生がすごく有名な人で…。ダンサーの、MAKAって知ってる、よね』
一織は、目を丸くして頷いた。MAKAを知らない日本人などいないだろう。ダンスに興味がない人間でも、名前くらいは知っているであろう超有名人である。活動の拠点はロスのはずだが、そういえば日本に帰って来ているとニュースでやっていたことを一織は思い出した。
『MAKAさん忙しい人だから、レッスンしてもらえる時間が限られてて』
「なるほど。そのレッスン日が、水曜日と金曜日というわけでしたか」
『うん。学校も大事だけど、レッスンの方を優先するって決めたから』
ずっと抱えていた疑問が解消され、一織は胸のつかえが取れる心地だった。そして、そんな秘密を自分にだけ明かしてくれたことが嬉しい。
「話を少し前に戻しますが “私には出来なかった” という言葉の意味を教えてもらっても?」
『うん。実は私も、一織くんと同じ状況になったことがあるから』
エリと同じ様に、MAKAから指導を受けている生徒同士で組んだダンスユニットがある。彼女達は時折、MAKAのダンスライブでバックダンサーとして使ってもらっていた。そんなライブを数日後に控えたある日。そのグループのセンターを務める人物が、足を怪我してしまったのだ。
そして、代わりにセンターに抜擢されたのがエリであった。