第1章 一夜目.5時限目の空
—12小節目—
妖精は夜に踊る
『夜の体育館って、こんななんだ。いつもよりも広く感じるね』
「それは分かる気がします」
『なんだか、踊り出したくならない?』
「それは分かりません」
冷たく言い放った一織を置き去りにして、エリはステップを踏む。体を揺らす。その振りを見て、さすがにすぐ様気が付いた。
「あなたは本当に、Perfection Gimmickが好きですね。見事な完コピです。というか……なんだか異様に、上手くないですか?」
『ねぇ、一織くん。私の秘密をひとつ教えようか』
「人に教えればそれは秘密でなくなりますが、そこは良いんですか?」
『私が一織担になったきっかけなんだけど、興味なかった?』
「興味しかありません。ぜひ聞かせてください」
エリは、一織のパートを流すように踊りながら語り始める。
『IDOLiSH7のことは元々好きで、それなりに前から追い掛けてたんだけど、推しって人は特段いなくて。でも、あの曲で一織くんが真ん中に立って歌って踊ってるのを見た瞬間…、一織くんが最推しになってたってわけ』
「意味が分かりません」
『あはは、だよねぇ。
私はね、知ってるんだ。“センター交代” って言葉で表すのは簡単だけど、実際はそう単純で簡潔な話じゃないってこと。自分は受け入れてもらえるのか、批判されるんじゃないか。そんなふうに、物凄い重責とプレッシャーで潰れそうなはずなのに。一織くんは、そんな不安を感じているなんて、客席に微塵も感じさせずやり切った。
私はそんな貴方を見て、尊敬して、好きになった』
彼女が言った “好き” は、どの種類の好きなのだろう。一織が、意を決してそれを問おうとするより早く、エリは再び口を開いた。
『私には、とてもじゃないけど、出来なかったことを一織くんはやり切ったんだ』