第1章 一夜目.5時限目の空
「次回から、あぁいった奇行に走る際は前もって一言いただけますか?突然の出来事だったので、あなたは忍者の末裔か何かかと本気で疑ってしまいました」
『あはは、忍者!一織くんって真顔でそういうこと言うから、何が本気で何が冗談なのか分かりにくいよね』
正面入り口まで最短ルートは、グラウンドを突っ切る道だ。しかし、この時間の不法侵入でそこまで堂々とした振る舞いをする訳にはいかない。ぐるりとグラウンドを迂回して、二人は目的の入り口までやって来た。
『あれ、鍵閉まってる』
「当たり前でしょう」
一織は、苦笑するエリを一階の窓へと誘った。この窓は、昼の間に一織が鍵を開けておいた場所である。保険で他の窓も数ヶ所開錠しておいたのだが、一ヶ所目ですんなりと開いてくれた。
エリは、さすが一織くんと拍手をして喜んでいる。こんな楽しそうで嬉しそうな笑顔を見れるのならば、この程度の悪行は容易いものだと一織は内心で考えた。
「それで、どこへ行くんですか?さきほどから、淀みなく歩いていきますが」
『そうだね、まずはここ』
そう言って彼女が立ち止まったのは、階段の踊り場であった。そう。この場所は、二人の距離が大きく縮まった始まりの地である。
エリは、愛おしそうに辺りに目を配っていた。月明かり差し込む窓。つるりと光沢のある手摺。数多の生徒が幾度となく通ったであろう階段。その一つ一つを、瞳に焼き付けるようにエリは観察していた。
一織には、分からない。どうして彼女が、これからも沢山見ることになる景色に夢中になっている理由が。
「あの」
『ありがとう。じゃあ次に行こう』