第1章 一夜目.5時限目の空
約束の、二十二時。申し合わせたわけでなかったが、二人とも制服姿である。息が白む季節であるので、制服の上から防寒具は羽織っているわけだが。
『よくこんな時間に来てくれたね』
「あなたが呼んだんでしょう」
『うん。だから、ありがとう』
「構いませんが、せめてもう少し説明は欲しいところですね。どうしてこんなことを思い立ったのですか?」
そんな当然の疑問を、彼女は笑って誤魔化した。
二人は、改めて目の前に聳(そび)える正門を見上げた。中に入るには、ここの乗り越えるのが確実だ。一織は、頭の中でシミュレーションを開始する。まずエリを押し上げてから、自分が登るか。それとも自分が登ってから、エリを引っ張り上げるのか。
後者にしようと決めた一織は、隣に立つエリの方に顔を向ける。しかし、さっきまで居たはずのエリの姿が消えている。
「は?」
そう短い声を上げ、首を回し辺りを確認する。エリの姿は、すぐに見つかった。正門から数メートル離れた場所で、じっと立ち尽くしているではないか。そして次の瞬間、スプリンターの如く異様に早い加速度でこちらに駆けて来た。その奇行に驚く暇もなく、一織の近くにあったガードレールを踏み台にしてエリは高く舞い上がったのだ。
勢いそのまま、正門の上部へ両手を突くと、空中で一回捻りを加えてさらに上へと飛び上がる。月を背景に美しい体操技を披露したエリに、一織はただ目を見開いた。勿論、着地を含めて百点満点の出来であった。
「何、ですか。今の」
『あ、暗いから分かりにくかったかな。えっとね、助走を付けてガードレールを蹴った勢いで、正門を飛び越えたんだけど、その時に一回転してみた。コツは、最後まで勢いを殺さないこと!』
「誰がパルクールの教授を願いましたか?」
一織は、驚きと呆れの感情を抱えたまま一人正門を乗り越えるのだった。