第1章 一夜目.5時限目の空
—11小節目—
とった君の手は冷たくて
大和と一織の密談という名の相談会から、数日経ったある日の木曜日。一織はタイミングを見計らい、エリを呼び出した。貰ったアドバイスに塾考を重ね、彼はついに腹を決めたのである。
「以前出来なかった大切な話を、今こそあなたに聞いて欲しいんです。少しお時間をもらってもいいでしょうか」
きっとこの説明だけで、エリはどんな話を聞かされるのか察しがついていると一織は思う。好きだと伝えて、恋人になりたいんだと伝えれば、彼女はきっと頷いてくれる。喜んでくれると確信していた。
だから、気のせいだ。エリの笑顔が、悲しそうに見えるだなんて。
『その前に、私からもお願いがあるの。叶えてくれる?』
「最善を尽くしましょう」
『そこは即答でイエスって頷いて欲しいな!』
普段通り、眩しい笑顔を弾けさせるエリ。やはりさきほど自分が感じたことは、気のせいだったのだと一織はほっと息を吐いた。
彼女の願いは、意外な内容だった。
夜の十時。学校の正門まで来て欲しいとエリは告げたのだ。さらに聞けば、夜の学校に忍び込みたいということらしい。
確認するまでもなく校則違反であるし、寮をそんな時間に出たならメンバーから怪しまれることは必至だ。しかし一織の脳は独りでに計算を始めている。安全かつ確実に、校内に入り込む方法。メンバーに見つからずに寮を抜け出す算段を。
どんな無茶な我儘も、無謀な願いも、エリが望むなら叶えてやりたい。その思考は、息をするのと同じくらい自然なものとなっていた。以前の一織なら、そんな思考回路は即切り捨てていただろう。しかし本人は、そんな新しい非効率な自分のことを好きだと思えるようになっていた。