第1章 一夜目.5時限目の空
言いたいことを全て言い尽くし、一織が以上ですと口を閉じるまで大和は何も言葉を挟まなかった。そしていま彼は、眼鏡の奥の瞳を大きくしている。
「いや、なんつーか、意外だったわ。お前さんみたいな奴でも、そんなことで悩むんだな」
「そんなこと、とは心外ですね。というかそもそも、これは学友の話であって私自身の話ではありませ」
「あーはいはい、そうでした。間違えましたごめんなさい」
明らかに、そういう体でしたねーと一織を揶揄う大和のスタンス。ここまで通通なのに、わざわざ学友の話だと嘯(うそぶ)く必要性があるのか疑問である。
「それに…彼は一人でアイドル活動しているわけではありません。仲間がいるんです。自分の我儘を押し通した結果、その仲間達にまで迷惑が及ぶのではと考えているようで」
「あのさ。さっき俺が “そんなこと” って言ったのは、そこなわけ。仲間なんだろ?だったら、そいつの本気の恋を応援しないはずない。周りのこととか俺らのことなんか気にすんなって、背中押すのが本当の意味での仲間なんじゃねえの?」
「…二階堂さん」
「これは俺の勝手な憶測だけど、そのお友達なら上手くやるでしょ。自分のグループのスキャンダルになるような間抜けな真似しないと考えます!」
大和は、にかっと笑った顔を一織に向けた。仲間からの頼もしい言葉と微笑みに、改めて自分がIDOLiSH7のメンバーであることを誇らしく思う一織であった。
「あと、これもその友達に言っといて。彼女の幸せを、お前が勝手に決めるなって。素顔の彼氏とデート出来なくて、外で手を繋げなくて、恋人を堂々自慢出来なきゃ幸せじゃないなんてのは、お前の勝手な想像だろ?もしかしたらその彼女は、お前の隣に居られるだけで、世界で一番幸せな女になれるかもしれない。
と。お兄さんは思ったわけです」
「二階堂さんは、アイドルが特定の人物を好きになることに対して寛容なんですね」
「なにを当たり前のこと言ってるんだろうねーこの子は。当然だろ。アイドルだって人間で、人間は恋をする生き物なんだよ」
一織は、自分の胸に手を当てる。
いつの間にか咲いていたこの花を摘み取らなくても良いのだと思うと、目頭が少し熱くなった。