第1章 一夜目.5時限目の空
「で?最近どうよ、学業の方は」
「概ね問題はありませんが」
「こらこら、会話のキャッチボールしようって姿勢くらい見せなさい」
「すみません。自分のことを話すのはあまり得意じゃないので、暴投してしまいました」
「はは。左様で。だったらべつに、お前さん自身のことじゃなくてもいいんでないの?たとえば、友達がこんなことやあんなことで悩んでるー…みたいなのでもいいわけよ。イチじゃなくて “友達が” ね」
大和の粋なパスに、一織はなるほどと感嘆の声を漏らす。ここは、素直に乗っかってみることにした。
「分かりました。では、これは私の “学友の” 話なのですが…」
「はいはい」
「……念を押しておきますが、決して私自身の話ではないですからね?あくまで学友の身に起こっている話ですから。誤解が無きようにお願いします」
「念の押し過ぎは逆効果だぞー」
一織は、意を決して打ち明け話を開始する。言うまでもなくそれは、友人の話などではなく一織本人が現在対峙している悩み事である。
「その学友は、学業の傍らでアイドル活動を営んでいるんです」
「お、おう」
(実は隠す気ないだろ、これ)
「彼は、アイドルです。自分の立場くらいは、しっかりと理解しているつもりでした。ですが…恋をしてしまった。相手は、クラスメイトの女生徒です」
一織が苦しそうに紡ぎ出す言葉の一言一言を、大和は真剣に受け止めた。彼は続ける。
エリとデートをした時のこと。そこで起こった出来事のあらましを。
「恋人関係になれば、彼女の隣を歩くのは、いつも帽子にマスクに眼鏡を装備した怪しい風貌の男になるんです。
恋人同士になっても、それを公にしてあげることは出来ません。それどころか、彼女に嘘を吐かせなければいけない場面もあるでしょう」
果たしてそれは、エリの幸せに繋がるのか。そもそもアイドルという立場の自分が、恋人を作っても良いものなのか。
一織には、何が正解で何が不正解なのかすっかり分からなくなっていたのだった。