第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
そして、私から離れない彼にも
また理由がある。
音柱様は、わかっているのだ。
私がさっき、
イラついて包丁を叩きつけようとした理由を。
『なんでこんな事も』
そう思った。
なんでこんな事も満足にできないのだと…、
まともに大根も切れない自分がイヤになった。
包丁すらうまく握れない。
それを知っていたんだ。
音柱様は何でもないフリをして
私を手伝ってくれた。
もう1か月経つ。
力を入れたら痛むけれど、
それでも傷口はとうに塞がっていた。
怖くて仕方ない。
私の手は、どうなっているのか。
違和感はある。
いや、違和感しかない。
「………音柱様…」
「…どうした」
私の変化にすぐに気づいてくれた音柱様は
役立たずなこの手から
すぐさま包丁を取り上げて
ひどく真剣な様子になった。
「…音柱様…っ」
「あぁ」
私の右の手を、そっと握ってくれる。
それは、無意識ですか?
それとも
私が言いたい事がわかってるの?
そうだ。
この人が、知らないわけがない。
気づかないはずがない。
だって前にも
試されるような事をされたもの。
これどうだ?
そう言って…
あの時私は何のことだかわからなかったけれど
音柱様は、
この右手を握りながらそう言ったのだろう。
握られている事にすら
気がつかなかったんだ。
この手は、感覚がないままなのだ…
「…音柱…様、私は」
私の手を包んでくれる音柱様の親指を
握り返そうとした。
でも、やっぱり力は入らなくて…
「私はまだ…戦えますか…?」
大丈夫だよって、
言って欲しかった。
そんなモン、すぐ良くなるに決まってるって
いつもの調子で笑い飛ばして欲しかったのに。
音柱様は、
ぎゅうっと私を抱きしめるだけだった。
それが、答えでしょ?
やっぱりこの人はわかっていたの。
「まだやれる、って…言ってやりてぇけどなぁ」
ツラそうな声が、
余計に私を切なくさせる。
「ごめんな睦…
俺お前にウソなんかつけねぇよ」