第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
俺はよっぽど警戒されてたんだな。
不安材料がなくなった途端、
隙間なく寄り添うようになった。
怖い、って言ってたな。
怖がらせていたとはつゆ知らず…
知らなかったからと言って
許されるワケもなく……
だが、…今はここまでくっついてくるのだ。
睦の不安も解消されたって事で
どうかひとつ、許してもらいたい。
ソファの上に全身で乗り上げて
空いた座面に長座をする睦は
無防備というか無警戒というか…
このゆるーい感じが何とも愛らしい。
自分に巻きつけさせた俺の二の腕に頬を預け
すべてを委ねた格好も好ましい。
夕食後、風呂も済ませた睦からは
俺と同じ香りがしてきて
何だかちょっと嬉しかった。
しばらく様子を窺っていたが、
睦はそれを気にするでもなかったので
俺は再び、美術書に目を落とした。
テレビも消え、音楽も流れない。
静かな部屋の中。
聞こえるのは、俺がページをめくる音と
睦がスマホの画面を叩く音だけだ。
こんな沈黙に耐えられるのも
相手が睦だからだろう。
今まで俺が相手にして来た女だったら
俺がこんな事をしている時点で
自分の相手をしろだの、
つまらないから帰るだのと
ごちゃごちゃ言ってきたに違いない。
例えば、ここで俺が話を始めれば
睦はスマホをいじる手を止めて
会話に乗ってくるんだろうなぁ…。
睦と共有する空間は
沈黙すら心地よかった。
ずっとこのままでもいい…
そんなふうに思わせるほどにだ。
「先生…」
しかし、その心地いい空間を破ったのは
睦だった。
スマホの画面を眺めながら
どこか上の空で呼びかけられ、
「おー…」
同じく美術書に目を落としたまま
俺もぼんやりと返事をする。
「こないださぁ、」
「んー、」
「ビール飲んでたよね…」
「んあぁ」
「…私がいる間は、飲まないって言ってたよね」
「………」
そんな事もあったような気がする…