第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
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二ヶ月が経って、こちらの生活に順応してきたころの昼中。
弾力のありそうな入道雲が、むくむく湧き出ている空を見上げて、
(動物に見えてくるわ。あれなんかイルカみたいじゃない)
よそ見していると目の前の人物――リヴァイが物言いたそうな眼つきをしていた。「やる気あるのか」と彼の肉声が脳内で再生される。
(いけない! 集中しないと、またどやされちゃうわ)
午前中に一通りの基礎訓練を終わらせたは、午後から対人格闘術の指南を受けることになっていた。教わるのは今日が初めてだが、アニからちょくちょく技を直伝してもらっていることは彼に報告していない。組み手をするときに驚くかもしれないと思うと、にやけそうになる。
ただちょっと気にかかることがあるので問いかけた。
「格闘術って、ボクたちに必要な技術なんでしょうか」
「なぜそんなことを訊く」
「だって調査兵団の敵は巨人です。自分たちよりも何十倍も大きい彼らに通用するとは思えません」
偉そうではなく、リヴァイは淡々と言う。
「立体機動技術だけを高めていればいいわけじゃない。兵士として、あらゆる知識や技術を体得しておく必要がある」
「そうでしょうか。調査兵団だけじゃなくて、全兵団においても必要ないような気がします」
国が割れているわけでもなく、一見して争いがあるわけでもなく、平和なのに人間相手に対抗するような技術を体得する必要があるのか――という武力行使を嫌うの保守的な考えであった。
「三兵団の兵力が怖いか」
「闘う力は争いを生みます」
「だからといって力を放棄すると? それで守るべき対象が危険に晒されたとき、どうやってお前は守る」
は黙った。守らなければならないときが訪れるのは何も国を巻き込むほどの争いだけではない。隣人同士の小さなトラブルであっても機会はあるということである。日常的なものだけを指しているとは思っていないが。
「あいだに入るとき、盾になるだけの力がないと守れないだろ。敵が巨人とは限らない、ここまでは理解したな?」
「はい。例えばスリにあったときに対抗したり、喧嘩の仲裁に入ったり……ですよね」