第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
焦っていたからのことを強く抱きしめてしまった。眼を大きくして身を縮ませているの肩幅は、男と思えないほど華奢だった。頬に触れる髪の毛からは妖艶な花の香りがする。
「お前、なぜこんなに」細くてなよらかなんだ。と続くはずだったのに、訝しさと混濁する脳が発語という信号をストップさせた。昼間に抱いた娼婦と感触がだぶる。これではまるで――
放心しているようだったが、リヴァイの胸許に添えている両手を見て、急に眼をぱちぱちさせた。
「ない!」叫んで天井を仰ぐ。「上! プフアンクーヘンが!」腕を伸ばして指を差した。
近い横顔に一瞬惑ったリヴァイも、輪郭のはっきりしない天井を見上げた。菓子が空を舞っていた。「……は?」
上に向かって指を差しているの身体が、大きく弓なりに落ちていくプフアンクーヘンを追って、後方に反りだす。
「落ちちゃう!」
「お前が落ちる! その前に支えている奴のことをおもんぱかれ、阿呆が!」
階段の下へ落ちていくプフアンクーヘンを、リヴァイは再び眼で追う。鋭く舌打ちをし、を離して上段から飛んだ。空中で菓子を捕まえ、着地の衝撃を和らげるために一回転して地に片膝を突いた。
ふうと息をつき、掴んでいる手を振る。
「無事だぞ、お前の甘い友達は」
「助けてくれてありがとうございます。お礼にあげます、ボクの大好きなプフアンクーヘン」
眼をしならせて微笑むを見ていたら、もう断れなかった。
(手に取っちまったしな)
甘いものは嫌いなのだけれど。長ったらしい銘柄の菓子に、リヴァイは目許を和らげてみせたのだった。
「殺人的に甘すぎるだろ、これ」
自室に戻ったリヴァイは、窓際に配置された猫足丸テーブル三点セットの椅子に腰掛けていた。一口食べたプフアンクーヘンを真逆の渋い顔で見る。
「紅茶がねぇと、とてもじゃないが食いきれん」
それも一段と渋みの強い紅茶でないとだめだ。
食べかけの菓子を小皿に戻し、リヴァイは腰を上げた。窓のそばに立ち、カーテンを引いて外を眺める。薄い雲がはびこる空は、もったいぶって星々を隠していた。