第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
こんもりしている紙袋を鞄から出したは顔をぱっと上げた。ばつが悪そうだ。
「き、聞こえてたんですか!?」
「俺の耳は特別いいらしい」冷めた眼でリヴァイは自分の耳を指差した。
と、紙袋から甘い匂いがふわりとたゆたってくる。
「何の匂いだ」
「だから美味しいものって言ったじゃないですか」紙袋に手を入れる。「市街の露店で買ってきたんです」
「詰まるところ、お前は寄り道をしてきたと、そういうことか」
もう怒る気はなかったが、リヴァイはわざと低めの声音を使った。そわそわとは焦り始める。
「帰りじゃないです、行きです」
「同じだろ」
話を無理矢理終わらせる感じで、は紙袋から出したものを顔面に突き出してきた。真ん中に穴の空いた揚げパンだ。
「これです、これ! すっごい美味しいんです! だから幸せのお裾分けです!」
「なんだ、これ」
「知らないんですか? プフアンクーヘンっていってウォールローゼの名物なんですよ」
眼を丸くしたは、ひどく誇らしげに言った。馬鹿の一つ覚えのように聞こえたが。
甘味に興味ないというか、リヴァイはとても苦手だった。プフアンクーヘンを見ているだけで胸焼けがしてきそうだ。いまだ受け取らずに、顔を少し遠ざける。
「ぷふ……? 長い銘柄だな。油で揚げただけの単なるパンじゃねぇか」
「作り方はたぶんそうでしょうけど。ボクのおすすめなんで食べてみてください」
「俺はいい。お前が欲しくて買ってきたやつなんだろ」
「実は二個買って、ボクは行きに歩きながら食べてきたんでもういいんです」
(食ってきた!?)
階段をうっかり踏み外しそうになり、リヴァイの血流が一瞬騒ぎ立てた。自覚のないを、やっぱり叩き出そうかと考え直したくなった。
こめかみの血管がぴくぴくしてくる。
「買い食いを堂々と白状してくるとは、肝が据わってやがる」
「え!? あ!」
口を滑らせて不都合なことを自白してしまったは、いまさら覆っても遅い口を片手で隠した。リヴァイから逃げようと一歩後ろに下がろうとする。が、ここは階段である。
「馬鹿!」
空を踏んだが後ろに倒れそうになる。リヴァイは彼の腕を掴んで、もろそうな細い腰に腕を回した。