第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「平気で嘘をつく奴を誰が信じる? 数十分前のことを思い出してから言え」
「なんか常に見張られてるみたい。脱走兵の監視みたいな」
ぶつぶつと零しているが、小声で文句を言ったのが聞こえていないとでも思っているのだろうか。それともリヴァイの耳が人並み以上によいのか。
本音を言ってしまえば脱走してくれたほうがいいと思っていた。厳しい訓練はもう嫌だから辞める、と言い出すのを待っていた。
甘い人間を壁外に出して、むざむざ戦死者を増やすようなことは避けたいとリヴァイは思っている。ある程度覚悟が足りないのは仕方ない。巨人を見たことのない兵士は足が地につかなかったりするからだ。
が、の暢気さは度が過ぎていた。貴族の屋敷で純粋培養されていたとしても異常だった。あえていうならば、同じ世界で育った人間とは思えない、と言い切ってしまいそうになるほどだった。
今日訓練兵団へ行かせて、もし何も感じずにが帰ってこようものなら、調査兵団から叩き出そうと思っていた。しかし彼は猶予を手にしたようだ。
さておき背中に刺さる小生意気な気配は放っておけない。どんな顔をしているのか、リヴァイの頭の中で思い描かれてはいるけれど、答え合わせをしてみようか。
階段の踊り場を曲がってふいをつこう。そしてリヴァイは肩越しに振り返った。
は大げさなまでに肩をびくつかせた。急に振り返るなんて思わなかったのだろう、唇を尖らせた面容で氷になっていた。
あまりに間抜けだったので笑いそうになったがリヴァイは威厳を保つ。
「お前のそれは癖か」
「え!?」
「気にいらねぇことがあると、すぐに唇を突き出しやがって。俺が気づいてないとでも?」
指摘されては手で唇を隠した。仕様もない言い逃れをする。
「く、口笛を吹きたい気分だっただけで、反抗してたわけじゃないです」
「つくづく嘘をつくセンスがない奴だ」リヴァイは顎をしゃくってみせる。「その顔、鏡で見たことあるか? ぶ男もいいとこだ」