第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
そのタイミングで、がらっと扉が開く。仁王立ちのキース教官が目許に恐ろしい影を落としていた。
「いましがた大きな声が聞こえたが、誰か説明してもらおうか」
水を打ったようにしんとするコテージ内。すっと手を挙げたミカサが立ち上がった。
「サシャが放屁した音です」
「え!?」
一人の少女が顎が外れるほど口を縦に伸ばした。さっきから芋をあむあむと食していたポニーテールの子だ。
「また貴様か。少しは慎みを覚えろ」
臭いものをシャットアウトするようにキースは鼻を押さえた。そして幽霊のように静かに消えていった。
サシャは涙で抗議した。そんな嘘をつかれたら泣きたくなるのも頷けるが。
「ひどいです、ミカサ!」
「芋ばっかり食べてるから」
「だからって、みんなの前でオナラをするような子じゃありませんよ、私は!」
サシャに詰め寄られているミカサをよそに、エレンとジャンはほっと息を吐いた。
「危なかったな、ジャン。減点されて憲兵団行きが危うくなるところだったぜ」
「エレンこそ、調査兵団への適性を失うところだったな」
彼らにとってキースは脅威のようだった。
「そろそろ対人格闘術の時間だよ。これが終わったらお待ちかねの晩飯だし、頑張っていこう」
鞄を肩に掛けた少年がそう言った。学級委員のような真面目な印象を受けた。
訓練兵はぞろぞろと退室していく。窓の外を見ると太陽がもうじき沈むころだった。生きる世界は違っても、太陽は東から昇って西に沈む。そんなことを思って呆としていたら教室は夕暮れに満たされていた。
静かになってしまった教室で一人だけ残っていたのは、斜め前の席で俯きがちに上目遣いしているアルミンだった。
「行かないの? 最後の訓練」
聞いたことを答えず、しんみり口調でアルミンは言う。
「さんは本当に僕たちより技術がないんですか? 立体機動とか格闘術とか」
「うん、全然ダメなんだ」
苦く微笑んでは静かに吐露する。
「立体機動中に眼を瞑っちゃうし、木にぶつかりそうで怖いし。格闘術は教わってもいないよ。取っ組み合いの喧嘩とかしたことないから、たぶん習っても下手クソで終わりそうだ。体力だってないしね」