第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
この二人に何があったのだろう。口を挟めなくて、はアルミンを窺った。彼も昔を悲しむように頭を垂れていたが、の視線に気づいてちろりと見てきた。
「五年前まで、僕たちシガンシナ区に住んでたんです。巨人の襲撃にあって街に住めなくなって、訓練兵団に入る直前までは開拓地にいました」
「街が巨人に襲われる光景を見たんだね」
その光景がどれほど悲惨だったのか、には想像もできない。アルミンの表情の翳りから、痛ましい出来事だったのだと感じる取るのが精一杯だった。
「いっぱい人が死にました。エレンのお母さんも、そのときに亡くなりました」
「俺の目の前で母さんは巨人に食われたんだ。あのときみたいな日が、またいつ訪れるか分からない。だから巨人を駆逐しなきゃいけないんだ」
机の上でエレンは拳を震わせていた。ミカサが復讐と口にしたのは、この事を言っていたのだろう。
エレンはミカサに冷静に問う。
「お前はどこを選ぶんだよ」
「エレンと同じところ。でも調査兵団だけは行かせない」
「俺は自分の意志を曲げる気はないぜ。ただもったいねぇと思うよ。お前の技術を、憲兵団か駐屯兵団で燻らせるなんてな」
調査兵団に入るというエレンの意志は揺らぎないもののようだ。
何の意志もないのに、調査兵団のジャケットを纏う自分が恥ずかしいとは思っていた。強い志を持つエレンは、このジャケットに誰よりも袖を通したいに違いない。ただ調査兵団への入団を、ミカサが頑なに反対する理由が分からなかったけれど。
講義を担当する教官が入ってきたので談話は終わりとなった。後ろを向いていたアルミンが教卓のほうに向き直ってノートや教本を広げ始めると、エレンやミカサもそれに倣った。
教卓の前で教官は丸眼鏡をくいっと上げる。「それでは本日の講義を始める」と言っている隙を狙い、はエレンに顔を寄せた。
「ミカサは反対してたけど、ボクは調査兵団に君が入ってくるのを待ってるからね」
エレンの笑顔が最大に明るくなった。
「絶対入団します。講義のあと、お話を聞かせてもらっていいですか?」
「え? なんの?」
「やだな、壁外での武勇伝ですよ」