第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
いきなり罵声が飛ぶ。
「お前は何者だ!」
「調査兵団所属の・デッセルと申します」
の胸許の翼を見て男はぎりぎりと歯ぎしりをした。ジャケットの襟を掴まれる。
「偽物のエンブレムめ! 自分で作って縫いつけたか!」
「ほ、本物ですよ。怪しい者じゃありません、身分証明書もちゃんと持ってます」
「本物だということは分かってる、馬鹿もん!」
不審者だと思われたわけではないのか。なぜ男はを怒るのだろう。
「こんな奴が調査兵……」わなわなと唸ってから唾を撒き散らす。「どこの訓練兵団所属だった! 東方か! 西方か! お前を担当した教官を殴りにいってやる!」
「訓練兵団は出ていません」
「なに!?」と男は血走った眼を剥いた。「ということはお前、エルヴィンが入団の許可を出したというのか!?」
「そうです。直接入団の許可をいただきました」
額を軽く触れ、男は黒目をぐるぐる回してふらっとよろめく。
「聡明なあやつが判断を誤るなど、そんなことは」倒れかけた男は、はっとして顎髭の顔をぐっと近づけた。「俺の見る目が衰えたのか?」
視点がぶれるほどの至近距離で穴があくほどを見てくる。
「な、なんでしょうか」
「見えん……何も見えてこない……。属している分隊は?」
「いまはどこも。リヴァイ兵士長から指導は受けていますが」
目玉が零れ落ちそうなくらい、男は両眼を瞠った。
「リヴァイから!? じきじきに!?」
微小に頷くと、さきほどよりも大げさに男はよろめいた。
エルヴィンやリヴァイを呼び捨てにする彼は何者だろう。口調に隠れた温度からは、ただの知り合いというふうには見て取れないが。
「大丈夫ですか? あの……、貧血?」
「疲れてるのかもしれん。それで視力が一時的に低下しているに違いない。そう、そうだ。そうでなければエルヴィンとリヴァイの目が腐っているとでもいうのか、いや、それは天地がひっくり返ってもない」
眉間を指先で押す男の胸の紋章を、ちらっと見てみた。「キース・シャーディス」とあった。