第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
訊くと、店主は珍しげにを見てきた。
「知らないのかい、あんた。プフアンクーヘンといやウォールローゼ名物だよ。どこの田舎から出てきたんだぁ?」
「えっと、一面畑の家がまばらにあるような、そんな村出身なんです。街の賑やかさにも驚いてるくらいで」
「そんな所なら知らなくても仕方ないか」
ぽっこり出た腹をたぷたぷ揺らして店主は笑った。は財布を取り出す。
「じゃあ二個買います」
「毎度あり! 一個は彼女にでもやるんかな? 若いっていいね」
プフアンクーヘンを手掴かみして店主は薄い紙袋に入れた。はちょっと突っ込みたかった。
(おじさん。さっき頭ぼりぼり掻いた手だよね、それ)
リヴァイの潔癖性が移ってきたのだろうか。気にしない気にしない、とはかぶりを振った。ばい菌が少しついたくらいで人間は死なないのだから。
四十リラを三十五リラにまけてもらって商品を受け取った。通りを歩きながら早速食べてみる。
「美味しい! まるっきりドーナツだわ」
口の中いっぱいに広がる甘さに、みるみる表情が明るくなっていく。久しぶりの甘味に感激していたこともあり、考えごとなど吹き飛んでしまったのだった。
12
南方駐屯訓練場は、現在一〇四期生が訓練中であった。
敷地内を進んでいくと兵士の集団が見えてきた。空に轟くような喝も聞こえてくる。兵団と同じジャケットを着ている彼らの背中や肩には、二つの剣が交差された紋章が入っていた。おそらく訓練兵団のエンブレムなのだろう。
厳しそうな訓練風景を素通りして、正面の建家に向かっていたの背中に、ビリビリとした大音声がぶつかった。
「貴様!」
しわがれ声を振り返る。
「え、ボク?」
のもとへ、年配の男がずんずんとやってくる。スキンヘッドが額の深い皺を目立たせており、瞳が怒りの色をしていた。
勝手に敷地内へ入ってきたことを咎めにきたのか。門番が留守だったので仕方なかったのに。
男は正面で立ち止まった。長身の影が覆い被さり、の所だけ薄暗くなる。
「すみません、勝手に入ってきてしまって。門番さんがいなかったので……えっと」
彫りの深い目許で睨められているから怖かった。訓練兵に向かって上げていた喝と同じ声だったので、たぶん教官なのだろうけれど。