第16章 泣いてなんて、ないよ
『…はぁ』
相変わらず、強い雨が降り続いている。これでは、環の大好きなバイクに乗せてやる事は叶いそうに無い。
「ごめん、えりりん。俺のせいで、てんてんが怒って、えりりんが悪者になって、そんで、」
『はは、いいってタマちゃん。気にしないで。こっちこそ、気分悪くさせて ごめん』
丁寧語でもない、さん付け 呼びでもない、いつもの話し言葉に戻った私を。環はほっとした表情で見つめている。
『でも、急に会いに来ちゃったのは頂けないかなぁ。どうしたの?何か急用?』
私は質問をしながらも、車のエンジンキーを回す。
助手席に座る環の声色が、明らかに緊張したのを感じ取って。私はしっかりと彼と顔を突き合わせる。
「うん。あのな…どうしても、頼みたい事があって」
『いいよ。どうしたの?』
「怒んねぇで、聞いて欲しいんだけど…
俺、Lioの事調べた」
心臓が、跳ねた。
「わりぃ。えりりんは、待っててくれって言ったのに…でも、すっげー気になったから、勝手に調べちまった!ごめん!」
分かっている。彼が先走ったのは、私を思ってくれているから。
きっとただの好奇心や、面白半分。私を芸能界に突き出すつもりなど、毛頭ないという事も。
「えりりんはさ、もう…全く、歌えないのか?」
質問の意味を、よく考えてから慎重に返答する。
『全く。っていうわけじゃないよ』
「そっか。良かった…」
環はほっと、胸を撫で下ろす。そして 気が抜けたのか、ガクッと顔を下に向けた。
『…うん、それで?頼みたい事っていうのは、何?』
彼はゆっくり顔を上げ、真剣な瞳で私を突き刺した。
「今から、俺と一緒に歌おう」