第16章 泣いてなんて、ないよ
「『まぁまぁ』」
私は環の元へ。龍之介が天の元へと歩み寄り、さりげなく2人の距離を空ける。
「ちょっと落ち着いて 天。まだ環くんが、春人くんを引き抜きに来たとは限らないでしょ」
『四葉さんも。私に連絡もしないで、仕事中に来てしまった落ち度は貴方にもありますよ』
「「………」」
私達の言葉をそれぞれ噛みしめるようにして、2人は考え俯いた。
「悪かった、てんてん…。俺 バカだから。大人の事情とかよく分かんなくて、なんか色々 ごめんな」
環はチロリと視線を上げて、天に謝罪した。
私は、偉い!と叫び出して 環の頭をぐしゃぐしゃ撫でたい衝動を必死に堪えた。
「…キミも、これからアイドルとしてもっと有名になるつもりなら 、もっとその自覚を持った方が良い。
自分が馬鹿だと開き直ってないで、少しは芸能界という特殊な世界を知ろうと」
「おい天。もうやめろ」
楽の低い声が、天の言葉を遮った。
「はぁ…。お前な、自分で気がついてねぇみたいだから 俺が教えてやる。
天、さっきから駄々をこねているのはお前の方だぜ」
「な…!ボクがいつ駄々なんて」
「たしかに勤務中に職場に押しかけた四葉にも、問題があったかも知れない。でも、コイツも反省してるだろ。
それに四葉はただ、友達に会いに来ただけだろうが。それとも、春人にはそれくらいのプライベートも認めてやらねぇつもりか?
天、お前は…一体こいつの何なんだよ」
「っ、」
冷静な楽の正論に、天の顔は見る見るうちに赤く染まった。
「…っ、四葉環の友達の前に、彼は、八乙女事務所所属のプロデューサーじゃないか!
TRIGGERの…。ボク達のプロデューサーだ!」
天がそう叫んだ まさにその時。時計の針は、私の勤務時間終了の時刻を指したのだった。