第16章 泣いてなんて、ないよ
「ごめん、えりりん。急に来ちゃって」
『!!』
「「「えりりん……」」」
環は、自分が口にしてはいけない名前を口にしたのだと、遅れて気が付いたようだ。咄嗟に自分の口元を手で覆った。
「お、おい。えりりんってまさか…お前の事か?なんでそんな、女みたいなアダ名…」
私は、ゴクリと喉を鳴らす。
『わ…私が、そう呼んで欲しいと、頼みました』
苦しい言い訳だが、ここはなんとしても誤魔化し通す!
「理由は?」
天の、探りを入れるような視線が痛い。そんな攻撃的な瞳から目を逸らしながら、私は必死に更なる言い訳を模索する。
すると、意外な事に環が助け舟を出してくれる。
「ま、魔法少女えりりんって、てんてん知らねぇの!?今スゲー流行ってるアニメ!しかも、その主人公とえりりんがマジそっくりでさ!
んでもって、えりりんは、そのアニメの主人公が大好きで、自分の事もえりりんって呼んで欲しかったんだよな!な!」
……とんだ、泥舟じゃぁないか。
はたして、私は本当にこの舟に助けを乞うて良いのだろうか。不安が募る。
「「「………」」」
引いてる!ドン引きだ!完全に3人が引いてる!
その時おもむろに、龍之介が そっと私の手を 両手で包み込んだ。
「大丈夫だ春人くん。俺は君がどんな趣味趣向でも受け止めてみせる。
その証拠に、これからは俺も君の事を 春人くんではなく、えりりんと呼ぶよ!ね!えりりん!」
『やめて下さい!お願いします!!間に合ってます!!!』
優しすぎる天然というのも、時には残酷に人を傷付けるものだ。