第16章 泣いてなんて、ないよ
エレベーターの中で、考える。
どうして環は、連絡もせずに急に尋ねて来たのか。
前回会った時に、釘は刺したはずだ。簡単には会えないし、頻繁に連絡を取る事も難しいと。
それとも、そんなのを気にしていられないくらい急を要する用事でも…。
「おい、何焦ってるんだ?そんなに俺達には見られたく無い相手なのか?
もしかして…女、とか?」
今から会う相手は環だ。勿論 楽が勘ぐるような関係では無い。しかし、少しでもそう思うのならどうして彼らは、私を追いかけ回すような遊びをするのか。
いくら考えても分からない。頭の中がモヤモヤする。
『……はぁ。
しりとりで、ラッコ と 2回言って負けるような人には 何も言いたくはありません』
「なっ、お前!」
「ほら。やっぱりボクの言った通りだった」
「あはは!やっぱり春人くん、しりとりの内容覚えてたんだ」
楽のいじけた顔を見ていると、少しだけモヤモヤが晴れていく気がした。
こんな小さな腹いせでスッキリするなんて。私はやはり、性格が悪いらしい。
玄関ホールへ行くと、ロビーにある椅子に彼は座っていた。
第一声、何て声をかけようか。とか、どうやって2人きりになろうか。とか、そんな色んな考えが一瞬で吹き飛んだ。
彼が、全身をぐっしょりと濡らしていたから。
『タマ、キ君!』
思わず、タマちゃんと叫びそうになってしまったが。途中で修正して環君と呼んだ。
とりあえず、もっていたハンカチで 伝う雫を拭った。
『どうしたんですか!こんなに濡れて…まさかこの雨の中、傘もささず歩いて来たんですか?』
「あー…ごめん」
髪にハンカチを当てがうと、それはすぐに使い物にならなくなった。もっと大きな、タオルでないと水分を拭き取れない。やっとその考えに至った時、龍之介が受付から受け取ったタオルを環に差し出した。
「たしか、環くん。だったよね?MEZZO"の…。そのままじゃ風邪引くぞ?早く体を乾かした方がいい」
彼の優しい笑顔を見上げ、環は素直にタオルを受け取った。