第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
「どうしてもと言うなら、特別に俺の肩を貸してやらんこともない」
「虎於」
「あぁそうだ。なんなら膝枕でも良いぜ?」
「虎於ってば」
「なんだ、悠」
「春人、もう寝てるから静かにして」
「……」
私は、悠の肩に頭を乗せて眠りに就いていた。今の私の状態なら、5分あれば余裕で眠れる。そう思っていたが、実際には1分ほどで落ちてしまっていたらしい。
最高の心地だった。まるで天国にいるみたい。
しかし次の瞬間、私は地獄に叩き起こされる。仕事用携帯電話が、けたたましく鳴り響いたのだ。
悠の肩から頭を持ち上げ、ディスプレイを見る。そこには、世界で一番見たくない名前があった。だが同時にそれは、私が世界で一番逆らえない男の名前でもある。
『…もしもし』
《 やぁ!》
了の突き抜けた元気さが、頭痛を酷くする。私は、ぐっと堪えて彼の要件をひたすら待った。たが、いつまで経っても用事を言いつけて来ない。
『あの』
《 え?特に用はないよ?ただ、局に忍ばせた僕の優秀なスパイ君が、ŹOOĻはもうここを出たよーって教えてくれたから、今頃 君達はどこら辺をドライブしてるんだろうって思っただけ 》
『……寂しん坊ですか、貴方は』
《 そう。僕って飛び切りの寂しがり屋なんだ。可愛でしょ?だから君は、そんな僕の相手をしてくれるかなぁ?あっ、もしかしてお休み中だった?まさかそんなことはないよね!だって今は運転中のはずだ。だから君も退屈だろ?退屈を持て余す者同士、仲良く話をしよう!きっと楽しいからさ! 》
つまり、彼の長い話を要約すると こうだ。
少しの間も、寝かしてやらないぞ。