第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
その日から、私の地獄は始まった。了は、罰と称して私をとにかくこき使った。こき使う、などと言えば響きは可愛いが、そう甘いものではない。全盛期の馬車馬の方が、まだ楽をしていたに違いない。私は朝も昼も夜もなく仕事を言い付けられ、ここ数日はまともに寝ていないどころか家にも帰れていないのだ。
ŹOOĻのマネージメント業に加え、社長である了の付き人。何に使われるのか定かでない楽曲を膨大に要求され、さらには会社の経営を左右するような会議にまで出席させられる始末。資料作りに接待のお供など、挙げればまだまだきりがない。
「お前…大丈夫か?」
『大丈夫っぽく振る舞っている人間に、大丈夫かと問うのは無粋ですよ。虎於』
「うわ。目が完全に座ってんな…」
今は、局の駐車場。歩きで車に向かっている最中だ。
心配顔の虎於。私の顔を見て若干引いているトウマ。そして悠は、不服そうに唇を尖らせていた。
「お前の自業自得だろ。なんでオレらに、嘘吐かせたんだよ。了さんに本当のこと言えば、罰は4分こになったじゃん」
『はは』
「笑ってないで、何か言ってみれば?まぁどうせ、図星だから何も言い返せないだろうけど」
『4分ことか、超かわいー』
「ばっ、馬鹿にしてんの!?」
『まさか。私はね、私の罪を貴方達が肩代わりしても良いって思ってくれてるだけで幸せなんですよ。ありがとうございます』
それは私の本心であったのだが、どうやら彼らの望む答えではなかったらしい。相変わらず晴れない表情の3人を連れ、社用車が停めてある場所へ辿り着いた。
さぁ帰りましょう。と、運転席のドアを引く。その手を、力強く虎於が掴んだ。
「待て。お前は後ろだ。運転は、トウマがやる」
「って俺かよ!まぁやるけどさ…」
事務所に着くまでの間、少しでも休め。虎於の申し出は、正直ありがたかった。このコンディションで、アイドルを乗せた車を運転するのは出来れば避けたかったからだ。
素直にお言葉に甘え、私は後部座席へと乗り込んだ。