第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
ふと、思う。
了はまだ、この会場のどこかにいるのだろうか。そして、仲間の為に頭を下げる3人を見ているのだろうか。もし見ているのだとしたら、いま彼の心境はどんなものだろう。
確実に変わっていっている彼らを、どのような心持ちで見上げているのだろうか。
「大丈夫だよ」
それは、ごくごく小さな声だった。しかし確実に、ステージまで届いた。
やがて、その か細かった声は、次第に大きくなって数を増やす。
「そうだよ!大丈夫!何も間違ってない!」
「うん、大丈夫!私も巳波くんには、お友達に会って欲しい!」
「大丈夫!今日、会えなくても、また会いに来るから!」
彼らの真摯な言葉は、ファンに届いたのだ。口々に叫ばれる “ 大丈夫 ”
それはまるで魔法のように、ステージに立つ3人に勇気を与えたのだ。
目頭が熱くて、鼻の奥がつんとする。しかし、私が1人戦わずいる訳にはいかない。
すぐ音響に、2曲目をスタートするよう指示を出す。
歌い踊る彼らは、確かに3人だったけれど。私の目には、4人に映った。
観たいのに、くにゃりと視界が歪む。体の横で、握り拳を作って唇を噛む。そして、俯く。
3人の、成長が嬉しい。ファンを信じられなかった自分が、悔しい。そしてなにより、ここで立ち竦むしかできないことが悲しい。
すると。この震える肩に、そっと誰かが手を載せた。
「ほら。あの子らの為にも、しっかり観たらんと。
ほんま…えぇステージやなぁ」
私は物言えず、ただ頷いた。