第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
「だったら俺は、もうしばらく後で食べるぜ。その頃には、適温に冷めてるだろう」
『虎於。貴方それは、一番やってはいけない愚策ですよ』
「どこかだよ。どう考えても効率的だろ」
『いえ。たこ焼きを放置し、冷ましてから食べることは…関西では禁忌とされています』
ごくり。と、3人は本気の剣幕を見て生唾を飲む。私はそのまま腕をすっと上げ、足早に歩く通行人らを指差し続ける。
『もし貴方が、目の前のそれを冷えてから食べると言うのなら…大阪人である彼らが黙っていませんよ』
「い、一体…どうなるんだ」
『彼らは牙を剥き爪を立て、貴方に向かって一斉に飛び掛かってくるでしょう!』
「大阪の人間怖すぎるだろう!!」
『はい、あーん』
「あー」
まるで上限反射のように開かれた口。私はその中に、一番大きなたこ焼きを放り込んだ。
「〜〜ぐっっ!!」
「トラーー!」
「うぅっ、一番怖いのは間違いなく春人だ!」
吐き出すこともなく なんとか無事に飲み下した虎於は、涙目で私を睨み付ける。
「お、まえ…!喉がどうにかなるところだったじゃねぇか!明日、歌えなくなったらどうしてくれるんだ!」
「いやトラはちょっとしか歌わないだろ!」
「いや虎於はちょっとしか歌わないじゃん!」
「ほぅ、言ったな。明日は俺様のバックコーラスに、お前らが普段どれほど助けられてるか思い知らせてやる!」
ともあれ、明日のライブへの意欲が高まったようで何よりである。
私は元気に言い争う3人を尻目に、程よく食べ頃になったたこ焼きを頬張った。